大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(行コ)38号 判決

茨城県取手市戸頭一一八三番地

控訴人

荒木順一郎

右訴訟代理人弁護士

原周成

大森浩一

茨城県龍ヶ崎市川原代一一八二-五

被控訴人

龍ヶ崎税務署長 篠田昌美

右指定代理人

比佐和枝

渡辺進

松本隆治

仲村勝彰

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人が控訴人に対して昭和五九年三月二日付でした同五七年分の所得税の額を金一八九九万三五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税の額を七一万五四〇〇円とする賦課処分のうち、所得税の額を金一五〇九万九七〇〇円とする部分及び過少申告加算税の額を五二万〇五〇〇円とする部分をそれぞれ超える部分を取り消す。

三  控訴人のその余の本件控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、第二審を通じ、これを一〇分し、その九を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して昭和五九年三月二日付でなした同五五年分所得税の総所得金額を金一八八四万三九八二円、所得税の額を七五六万八〇〇〇円、過少申告加算税の額を金三七万八四〇〇円、五六年分の所得税の総所得金額を金四五九三万一五三六円、過少申告加算税の額を金一一九万五九〇〇円、同五七年分の所得税の総所得金額を金三九六九万五三四一円、過少申告加算税の額を金七一万五四〇〇円、重加算税の額を金一四〇万四九〇〇円とする更正処分並びに各賦課決定処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、第二審を通じ、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

次のとおり、訂正、付加するほか、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁六行目の「五万」の次に「円」を加え、同七頁九行目の「二九一〇万七九九〇円」を「二八九七万五八二七円」に、同一〇行目の「三六二八万〇七二六円」を「三六一四万八五六三円」に、それぞれ改め、同一〇頁九行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 なお、同別表2-3の1(3)記載の雑収入額算出に当たり認定した譲渡費用一七五万三三〇〇円の内訳は、〈1〉仲介手数料一二〇万円(小野村源六〇万円、昭和緑地六〇万円)、〈2〉耕作補償料四〇万円、〈3〉税理士報酬一〇万円、〈4〉土地改良区支払五万三三〇〇円である。」

二  同一一頁七行目の「19ないし31」の次に「(22を除く。)」を加え、同一二頁末行の「15ないし18、」を「17、18、」に、一七頁一二行目の「(3)」を「(4)」に、それぞれ改める。

三  同三〇頁九行目の「その余の利息については、」の次に「昭和五七年一二月末の」を加え、同三二頁一行目の「同人に対する」の次に「aに関する」を、同行の「金額」の次に「並びに利息額」を、それぞれ加え、同行から二行目にかけての「利息収入額は否認する。」を「bに関する主張は争う(ただし、控訴人が酒寄誠との別訴において、被控訴人主張のような主張をしたことは認める。)。」に改める。

四  同四九頁九行目の次に、改行して次のとおり加える。

「(四) なお、控訴人は、本件売買代金の中から、被控訴人が主張する〈1〉借入金の返済一八二五万七九〇〇円、〈2〉右に係る利息九一万四八九一円、〈3〉仲介手数料一二〇万円(司法書士小野村源六〇万円、昭和緑地六〇万円)、〈4〉耕作補償料四〇万円、〈5〉税理士報酬一〇万円、〈6〉土地改良区支払五万三三〇〇円、〈7〉譲渡所得税一六三万九四〇〇円、〈8〉市県民税四九万〇三八〇円のほか、〈9〉謝礼三三〇万円(岡田政枝一〇〇万円、石崎三〇万円、柴沼一五〇万円、栗原静五〇万円)、〈10〉市民税一四万〇八二〇円を負担しているし、友春にも〈11〉三二七万円(普通預金預け分一二七万円、現金二〇〇万円)を渡しており、結局、これらの合計二九六六万六六九一円と売買代金三八六四万円との差額八九七万三三〇九円が日興建設からの返済に充てられたものである。」

五  同四九頁一二行目の「15ないし18、」を「17、18、」に改める。

六  原判決別表2-3の収入額欄中の「36,280,726」を「36,148,563」に、同利息収入額欄の「19,496,597」を「19,364,434」に、同事業所得の金額欄の「29,107,990」を「28,975,827」に、それぞれ改める。

第三当裁判所の判断

次に付加、訂正、削除するほか、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五四頁末行の「貸付金債権を有していたこと」の次に「及び控訴人がその債権を担保とするため渡辺所有不動産に抵当権を設定していたこと」を加え、同五五頁八行目の「主張するが、」を「主張するところ、証拠(甲二の2)によれば、控訴人が渡辺所有不動産の競売手続では配当を得られなかったことは認められるが、」に改める。

二  同六一頁四行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 なお、控訴人は、伊藤に対する貸付金債権について、貸倒れにより回収不能である旨主張するが、後記三2(七)のとおり、右主張は採用できない。」

三  同六六頁一二行目の「振り出した」を「振り出した旨を酒寄誠との別訴において主張した」に改め、同六七頁一行目の「証拠」の前に「右当事者間に争いのない事実及び」を、同行の「乙一八の1ないし9、」の次に「七五の1ないし3、」をそれぞれ加え、同三行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 〈1〉 一六六万円(満期同五七年一月二五日)」

四  同六七頁四行目の「〈6〉」を「〈2〉」に、同行の「同年」を「同五六年」に、同五行目の「〈7〉」を「〈3〉」に、同六行目の「〈8〉」を「〈4〉」に、同七行目の「〈9〉」を「〈5〉」に、同八行目の「〈10〉」を「〈6〉」に、同九行目の「〈11〉」を「〈7〉」に、同一〇行目の「〈12〉」を「〈8〉」に、それぞれ改め、同一〇行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 〈9〉 五万円(満期同五六年八月二五日)

〈10〉 五万円(満期同年一〇月二五日)

〈11〉 五万円(満期同年一一月二五日)

〈12〉 一三万二〇〇〇円(満期同年一二月二五日)」

五  同六七頁一一行目の「前記争いのない五通の各手形及び右認定の七通の各手形」を「右認定の一二通の各手形」に、同六八頁九行目の「乙一八の9、」を「乙一八の1ないし9、」に、同一一行目の「〈6〉ないし〈11〉」を「〈2〉ないし〈7〉」に、同一二行目の「〈1〉ないし〈5〉、〈12〉及び〈13〉」を「〈1〉、〈8〉ないし〈13〉」に、同七〇頁一行目の「〈12〉」を「〈8〉」に、それぞれ改める。

六  同七三頁二行目の「乙八、」の次に「一一の1、」を加え、同七四頁二行目から六行目までを削り、同九行目の「右主張は採用できない。」を「右主張のうち、抵当権により担保されている七〇〇万円の債権に関するものについては採用できない。しかし、抵当権によって担保されていない六四五万円については、昭和五七年中に貸倒れになったものというべきであるから、同五六年分までの利息・損害金はすべて収入に組み入れるべきものといえるが、同五七年分の利息を収入に組み入れることはできない。」に改め、同行の次に、改行して次のとおり加える。

「 したがって、征夫及びとみいについては、別表7認定額欄記載のとおり、元金の弁済期である昭和五六年四月一〇日までは元金一三四五万円に対する年一五パーセントの割合による利息収入(うち、元金六四五万円に対するものが九七万〇一五〇円)が、弁済期経過後の同五六年中は元金一三四五万円に対する年三〇パーセントの割合による損害金収入(うち、元金六四五万円に対するものが一四〇万四八六三円)が、翌五七年一月一日から同年四月一日までは元金七〇〇万円に対する年三〇パーセントの割合による損害金収入が、翌四月二日から同年末日までは元金六九五万円に対する年三〇パーセントの割合による損害金収入がそれぞれ発声するものというべきである(計算根拠は、別表3付表1-6中、昭和五七年分については、「13,450,000」を「7,000,000」に、「13,400,000」を「6,950,000」に、それぞれ改めて算出する。)。」

七  原判決別表7(利息収入額)の32の吉田征夫・同とみいについての昭和五七年分の認定額欄の「4,023,739」を「2,088,739」に、同合計の昭和五七年分の認定額欄の「6,344,535」を「4,409,535」に、それぞれ改める。

八  同七六頁九行目の「二四、」の次に「三九、」を加え、同一一行目の「原告本人(一部)」を「控訴人本人(原審及び当審の各一部)」に、同七七頁二行目の「裕商会」を「〈裕〉商会」に、それぞれ改め、同八二頁一〇行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 仮に、控訴人の石﨑に対する求償権が事業の遂行上生じた債権であるとしても、その求償権は、石﨑が保有している債権を担保としていたから、その担保となっている債権の回収が不可能となった段階で初めて求償権の回収も不可能となる関係にあったところ、右認定のとおり、約三五〇〇万円分の取立ての委任を受けていた小沼が昭和五九年ころ行方不明となったというのであるから、石﨑に対する求償権も、昭和五九年以降に回収不能となったと認めることはできるものの、昭和五七年までに回収不能となったものと認めることはできないので、この点からも、控訴人の主張は、採用できない。」

九  同八三頁四行目の「いうべきである。」を「いうべきであるし、右(一)のとおり、石﨑に対するに債権は、昭和五九年以降に回収不能となったと認めることはできるものの、昭和五七年までに回収不能になったと認めることもできない。」に改める。

一〇  同八六頁一行目の「乙五四、」を「乙二五、五四、」に、同八行目の「資金不足で」を「取引なしの理由で」に、同行の「貸付後に」を「同年末ころに」に、それぞれ改め、同九行目の「身体障害者で」の前に「塗装作業の際のシンナー吸引により」を、同一〇行目の「状態であったこと、」の次に「谷下田は昭和五六年中に営業を廃止していたこと、」を加える。

一一  同九七頁八行目から同一〇行目までを次のとおり改める。

「 ところで、証拠(甲三六、控訴人本人(原審及び当審))によれば、控訴人は、昭和五四年五月二五日の大洋建設への貸付については、友人の坂本桂一の紹介で知り合った不動産仲介業者の中村長一郎から融資の依頼を受け、大洋建設の社長河村清次と称する男に貸付をしたこと、控訴人は、同人が大洋建設の記名判及び代表者印を所持していたこと及び紹介者の中村とは従前から取引があり、同人を信用していたことから、大洋建設への貸付について特段の裏付調査をすることなく信用したこと、控訴人は、昭和五六年に坂本から大洋建設が倒産したことを聞き、大洋建設に何回も電話を入れたが連絡を取れなかったため、坂本及び中村に責任を取るように求めたこと、両名は、責任を認めたものの、昭和五七年には行方不明となったことが認められる。

右認定の大洋建設の記名判、代表者印が異なること、大洋建設が借り入れていないことに鑑みると、右貸付は、中村ないしその関係者が、大洋建設名義で控訴人からの借入を企てたものと推認され、その事実関係を了知している中村が行方不明となり、事実関係の追求ができなくなった段階で、貸倒れとなったものと認めるのが相当である。

したがって、大洋建設への貸付金六〇〇万円については、昭和五六年中の貸倒れを認めることはできないが、昭和五七年の貸倒損失に計上することは認めるべきである。」

一二  同九九頁八行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 なお、証拠(甲一八の3、三六、乙五六、控訴人本人(原審及び当審))によれば、控訴人は、昭和五五年二月二六日に佐々木良雄に四〇〇万円を貸し付け、翌五六年二月に支払の催促をすると、佐々木が大一物産に対して貸付をしているので、同社に債務の肩代わりをして貰うことの了解を得ているとして、同社の代表者今野登と称する男を連れてきたこと、控訴人は、同人が代表者印を所持していたため、本人であると信じて、同五六年二月二五日付連帯借用証書(甲一八の3)を作成したこと、そこに押捺されている代表印は、第一物産のものと異なっていたこと、同社は、昭和五五年一一月に設立されたが、翌五六年三、四月ころには倒産したこと、佐々木は、大一物産が支払わないときには自分が支払をする旨約束していたので、控訴人は、佐々木に対しても支払を催促していたが、その支払がないのに、昭和六一年には二五〇〇万円の貸付をしたことが認められる。これと、今之の申述内容とを併せると、佐々木は、今野と称する男を利用して、控訴人からの借入金の返済を免れようとした疑いが強いところ、佐々木からの回収が不可能となったことを認めることができる証拠がない(かえって、昭和六一年にも同人に対する貸付をしており、昭和五七年までの間に同人に対する債権が貸倒れがあったとは認め難い。)から、佐々木に対する債権としても、貸倒損失に計上することはできない。」

一三  同一〇〇頁一行目の「昭和五三年三月二三日、」を「昭和五三年二月二五日、」に同一一行目から一二行目にかけての「減少したこと、」を「減少し、昭和五六年末ころには、征夫の病状も悪化し、一週間のうち、数日しか仕事に就けない状態になっていたこと、吉田家では収入が減少したため、とみいが昭和五四年ころからパートでゴルフ場のキャディーをして収入を得るほか、双方の実家から月約一〇万円の仕送りや、野菜、米等の仕送りを受けて生計を維持していること、」に、同一〇二頁四行目の「原告の右両名に対する債権は、」を「控訴人の右両名に対する債権のうち、抵当権によって担保されている七〇〇万円は、」に、それぞれ改め、同七行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 これに対し、抵当権によって担保されていない六四五万円及びそれに対する利息・損害金については、征夫及びとみいの生活状況に照らし、遅くとも昭和五七年には回収不能となったものというべきである。そして、二2(一三)のとおり、征夫及びとみいについては、同五五年及び五六年分の元金六四五万円に対する利息収入として九七万〇一五〇円を、同五六年分の元金六四五万円に対する損害金収入として一四〇万四八六三円を、それぞれ計上しているのであるから、同五七年の貸倒損失額は、元本六四五万円に右利息額及び損害金額を加算した八八二万五〇一三円である。」

一四  同一〇三頁一行目の「甲一八の4、」の次に「三九、」を、同行の「証人石崎輝子」の次に「(一回)」を、同行から二行目にかけての「原告本人」の次に「(原審)」を、同三行目の「ものであるが、」の次に「同人がバーテンをしているものであるのに、」を、同九行目の「身元確認をしないで」の次に「、バーテンの職にある者に」を、同行の「二〇〇万円」の次に「もの大金」を、それぞれ加える。

一五  原判決別表8(貸倒損失額)の五七年分の貸付先の「梅津幸三、同静枝」欄の次に、改行して次のとおり加える。

〈省略〉

同表の昭和五七年分合計の認定額欄の「2,188,602」を「17,013,615」に、それぞれ改める。

一六  同一〇八頁一〇行目の「甲二六、」の次に「四〇、」を、同一二行目の「三三ないし三六、」の次に「六二、」を、それぞれ加え、同一〇九頁一行目の「八五ないし八七、」を「八五、八七、」に、同三行目の「一部」を「原審及び当審、いずれも一部」に、それぞれ改め、同一一〇頁一〇行目の「仲介を」の次に「石﨑の知人である小野村源司法書士を通じて知り合った」を加え、同一一九頁六行目、同一〇行目及び同一二一頁二行目の各「市民税」を各「市県民税」に、それぞれ改める。

一七  原判決別表9-3の収入金額認定欄の「35,593,545」を「33,658,545」に、同利息収入額認定欄の「19,250,236」を「17,315,236」に、同必要経費額認定欄の「9,361,338」を「24,186,351」に、同貸倒金認定欄の「2,188,602」を「17,013,615」に、同事業所得金額認定欄の「26,232,207」を「9,472,194」に、それぞれ改める。

一八  同一二三頁一二行目から末行にかけての「本件各係争年分のいずれにおいても、」を「本件各係争年分のうち、昭和五五年及び同五六年分については、」に改め、同一二四頁二行目の次に、改行して、次のとおり加える。

「 しかし、別表9-3で認定説示したとおり、昭和五七年分の事業所得の金額は九四七万二一九四円であるから、事業所得の金額を一五七八万〇七一二円とする昭和五七年分の更正処分は違法である。そして、これを前提とし、当事者間に争いのない所得控除額九七万五四八〇円を控除し、さらに国税通則法一一八条一項及び一一九条、昭和六二年改正前の租税特別措置法三二条一項の規定を適用して所得税額を計算すると、次のとおり、一五〇九万九七〇〇円(課税総所得分一九六万八四〇〇円、分離短期譲渡所得分一三一三万一三〇〇円)であるから、同年の所得税額を一八九九万三五〇〇円とする更正処分は違法であり、右認定を超える賦課処分は取り消されるべきものというべきである。

〈1〉  課税総所得分

(9,472,194-975,480)×0.38-1,260,000=8,496,000×496,000×0.38-1,260,000=1,968,400

〈2〉  分離短期譲渡所得分(右租税特別措置法三二条一項二号の計算による。同項一号の計算では、九五六万五六〇〇円であるから、同項本文の規定により、高い方の二号の計算による。)

〈[(23,914,000-500,000+8,496,000)×0.6-5,240,000]-1,968,400〉×1.1=11,937,600×1.1=13,131,300

一九  同一二四頁六行目の「右過少申告部分は、」を「右過少申告部分のうち、昭和五五年分及び同五六年分については、」に改め、同九行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 しかし、昭和五七年分については、右説示のとおり、所得税額は一五〇九万九七〇〇円であるところ、次に述べるとおり、そのうち重加算税の対象とならない所得税部分の額は六九〇万七二〇〇円である。また、昭和五七年の被控訴人に化された重加算税の課税処分が一四〇万四九〇〇円であるから、その重加算税計算の基礎税額は四六八万三〇〇〇円と算出されるところ、次に述べるように、本件では、重加算税の基礎税額は八一九万三一〇〇円と算出されるから、右基礎金額から課された重加算税の基礎金額を控除した差額の三五〇万九五〇〇円も、過少申告加算税の基礎税額に加算して計算すべきである。国税通則法六八条一項の重加算税に関する規定は、同法六五条所定の過少申告加算税の関係では、後者の過少申告加算税の賦課要件に付加されている加重事由を定めた特別規定と解されるから、その適用については、前者を優先し、重加算税の課税処分に係る税額を超えている部分は、過少申告加算税の基礎税額に加算すべきである。そうすると、本件では、重加算税の対象とならない所得税部分の額は、結局、右六九〇万七二〇〇円と三五〇万九五〇〇円の合計額である一〇四一万六七〇〇円が過少申告加算税の基礎税額となるから、昭和五七年の過少申告加算税額は、国税通則法一一八条三項の規定の適用により、一〇四一万円の五パーセントに当たる五二万〇五〇〇円と算出される。

そうすると、昭和五七年の過少申告加算税賦課処分のうち、五二万〇五〇〇円を超える過少申告加算税賦課処分は違法であり、それを超える過少申告加算税賦課処分は取り消されるべきである。」

二〇  同一二五頁五行目から六行目にかけての「該当するというべきである。」の次に改行して、次のとおり加え、同六行目の「そして、」から同一〇行目の「適法である。」までを削る。

「 ところで、重加算税が課される場合には、対象となる過少申告加算税の基礎となるべき税額から、隠蔽又は仮装されていないものに基づく税額として、政令で定めるところにより計算される金額を控除した残高に基づいて計算されることとされている。

そして、当時の国税通則法施行令二八条一項によると、控除されるべき金額は、隠蔽又は仮装されていない事実のみに基づいて更正があったものとした場合における、更正に基づき国税通則法三五条二項の規定により納付すべき税額とすることとされている。

そこで、その場合における税額を検討すると、まず、事業所得の金額は、次のとおり、マイナス五六七万一一一五円であるから、その関係では、課税されないこととなる。

33,658,545円(別表9-3の1の金額)-15,143,309円(同表の1(3)の金額)-24,186,351円(同表の2の金額)=45,671,115円

また、分離短期譲渡所得の課税については、〈1〉短期譲渡所得(別表9-3の4の金額から、右五六七万一一一五円及び所得控除九七万五四八〇円を控除した残額)の四割に相当する金額と、〈2〉短期譲渡所得についての規定の適用がない場合に算出される所得税額として政令で定めるところにより計算した額の百分の百十に相当する金額とを比較し、いずれか多い金額に相当する所得税を課税することとされているので、国税通則法一一八条一項及び一一九条の規定を適用してそれぞれを計算すると、次のとおり、〈1〉の金額が多いので、結局、〈1〉の金額が控除されるべき隠蔽又は仮装されていない事実に基づく税額となる。

〈1〉の金額

(23,914,629円-5,671,115円-975,480円)×0.4=17,268,000×0.4=6,907,200円

〈2〉の金額

〈[23,914,629円-500,000円(譲渡所得の特別控除額)-5,671,115円-975,480円(所得控除額)]×0.5-2,740,000円〉×1.1=(16,768,000×0.5-2,740,000)×1.1=6,208,000円

そうすると、過少申告加算税の対象となるのは、本件では、一五〇九万九七〇〇円であるところ、隠蔽又は仮装によらないとして計算される税額は、六九〇万七二〇〇円であるから、重加算税の基礎となる金額は、その差額である八一九万三一〇〇円となる。したがって、課されるべき重加算税額は、国税通則法一一八条三項の規定の適用により、八一九万円の三割に当たる二四五万七〇〇〇円と算出されるところ、本件では、課されている重加算税額は一四〇万四九〇〇円であるから、本件の重加算税額の賦課処分は適法である。」

第四結論

そうすると、被控訴人が控訴人に対して昭和五九年三月二日付でした同五五年分及び同五六年分の各更正及び賦課処分並びに同五七年の重加算税の賦課処分は相当であるから、それに係る控訴人の主張は理由がなく、その部分の本件控訴は棄却される。

しかし、昭和五七年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課処分については、所得税額を金一五〇九万九七〇〇円及び過少申告加算税額を金五二万〇五〇〇円とする限度では理由があるが、それを超える各更正及び賦課処分は違法であり、取り消すべきであるから、原判決をその限度で変更し、その余の控訴人の主張は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 田中康久 裁判官 高橋勝男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例